◆サバップルを食べよう!◆


◆CHAPTER1◆

青森県は第一次産業が活発である。

日本国内では珍しく食料自給率が100%を超えており、こと農業においては米、リンゴ、長芋、ニンニク、菜花、サクランボ等の分野で

トップクラスの生産量を誇っている。この中でも特にリンゴは国内の約半数を生産していることからも知名度が高く、青森といえば

リンゴの県であるというイメージを強くしている。シャキッとした食感と甘酸っぱくて爽やかな風味で人気のある果物だが、英吉利

では「1日1個のリンゴは医者を遠ざける」という諺もあるように高い健康効果を持つことでも知られている万能食品である。



青森県は第一次産業が活発である。

日本国内では珍しく食料自給率が100%を超えており、こと水産業においては三方を海に囲まれていることもあり好調である。

イカ・ホタテ・ヒラメ・ナマコ・サバ・マグロ等が主要であり、大間のクロマグロのように半ばブランド化してしまった例もある。

八戸港の水揚げ量は日本一、二を争うほどで、八戸前沖のサバは脂肪が多く旨味が抜群であることから地域振興を目的として

同じようにブランド化が図られている。全国で消費されるシメサバの約8割はこの八戸で作られたものであるというから驚きだ。



青森名物として互いに名を馳せるリンゴとサバ。

しかし、その2人は決して相容れることはなかった。



そう、この時までは。


◆CHAPTER2◆





サバップル。
SABAPPLE





サバップル。安直な名前からも想像できるとおり、サバの身が入ったアップルパイである。

まずはサバップルが誕生した経緯について簡単に述べよう。

2007年当時、八戸では2010年の東北新幹線全線開業を見据え、地域振興のために八戸前沖サバをブランド化することにした。

そのための活動の一環としてその年の11月に開催されたのが「八戸前沖サバ創作料理コンテスト」であり、そこで栄えある

最優秀賞に輝いたのがこのサバップルというわけだ。さらに翌年には商品化を果たし、売り出されることになった。



リンゴとサバ。一見結びつかない組み合わせであり、D級グルメハンターの筆者としては注目するに値する一品かと思われたが、

コンテストで最優秀賞を獲得するようなものが果たしてD級なのかという疑問もあり、結局この時は賞味することはなかった。



―そして月日は流れる。


◆CHAPTER3◆

某月某日、某時刻。



筆者は憂いていた。

D級グルメが生まれにくいこの現状を憂いていた。

見た目の気を衒っただけの、限定商品という名目で人々の購買欲を煽ることだけに心を砕いた、大して美味くも不味くもない

誰の記憶にも残らないような商品が市場に氾濫している現状を憂いていた。

そんな筆者の意識を変えたのは、とあるメッセンジャーでの会話だった。



犬氏:「青森にはサバップルとかいう変なものがあるらしいですね。」

筆者:「愚か者め!そんなことは商品化の前から知っておるわ!」

犬氏:「さすがはD級グルメの求道者ですなあ。」

筆者:「褒めるな褒めるな。こそばゆいわい。」

犬氏:「ところで、どんな味でした?」

筆者:「!!!!」


◆CHAPTER4◆

犬氏:「ところで、どんな味でした?」

筆者:「!!!!」



筆者はここで言葉に窮した。そして己の愚かさを痛感した。

どんなに早くサバップルの存在を知っても、どれだけ詳しく誕生の経緯を知っていても、

その味を知らぬのであればサバップルについて語る資格はない。

D級グルメの求道者と呼ばれ、その立場にあぐらをかいてはいなかったか。

筆者は深い悔恨の情にかられた。

そして、自らの心根をあらためるために無関係なS氏をムリヤリ引き連れ、片道3時間をかけて一路八戸市へ向かった。


◆CHAPTER5◆

筆者:「これが・・・、これがサバップルか・・・。」

S氏:「なんというか・・・これ・・・、」







S氏:「三葉虫の化石みたいだな。」

筆者:「バージェス頁岩あたりに転がってそうだよね。」



正直言ってあまり食欲をそそるような形状ではないが、初見のインパクトは大事であるし、

切り分けてさえしまえば特に気になるものでもない。

筆者はかねてから懐に隠しておいたプラスチックナイフを手に取った。


◆CHAPTER6◆

筆者:「か、固いぞ!」

S氏:「バカな!プラスチックナイフを通さないだと!?このサバップルは化け物か!」



サバップルの意外な固さに恐れ慄く我等。

無理矢理やれば切れないこともなさそうなのだが、中身を押し潰してしまう可能性があるので

大人しく装備を果物ナイフに変更する。実に7年ぶりの出番がサバップルの切断とは

この果物ナイフも不幸な星のもとに生まれたものである。

果物ナイフは干されていた鬱憤を晴らすかのように見事に力を発揮。きれいに切ることができたのでいよいよ実食にうつる。


◆CHAPTER7◆

切れ目から、仄かに漂う生臭い香り。

サバが入っているのだから当然なのだが、どうも外見がパイだからそのことを忘れそうになってしまってぎょっとする。

断面を見ると、上部にはサバのフレークがぎっしり詰められているらしいことがわかった。固さの正体はこれのようだ。

プラスチックナイフを通さなかったサバフレークだが、実際に食べてみるとその固さがアクセントになっていて食感は悪くない。

サバ特有の生臭さもあらかじめ構えておけば気になるものではなく、むしろ香ばしさとしょっぱさがいい味になっている。

このサバップル、イロモノのようでいてアップルパイとしての完成度は非常に高い。



筆者:「意外と美味いな。」

S氏:「ああ美味いな。」


◆CHAPTER8◆

筆者:「意外と美味いな。」

S氏:「ああ美味いな。」



筆者:「結構食えるな。」

S氏:「ああ食えるな。」



筆者:「これだったら本当にお土産にしてもいいかもな。」

S氏:「ただ物珍しいだけじゃないからリピーターもつくかも知れんな。」



筆者:「だけどノド渇くな。」

S氏:「飲み物欲しいよね。」





美味い美味いとサバップルを食べ続ける我々を突如として異変が襲った。


◆CHAPTER9◆

不思議と咽喉が渇く理由、それはサバップル独特の製法に隠されていた。

サバップルのサバは先述の通り脂肪が多く、そのまま用いては水っぽくなってしまうという問題がある。

そのため、水分をできるだけ抑えるために編み出されたのが以下の工夫の数々である。



@サバをフレーク状にし、不要な油分を飛ばした。

Aバターやベーキングパウダーを一切使わず、卵と小麦粉と砂糖のみで固めの生地を作った。

B真空パックで梱包し、中に乾燥剤(シリカゲル「食べられません」)を何故か2つも入れた。





@とAはともかく、Bは少しやりすぎなんじゃないかなあと思いました。パッサパサやで。


◆CHAPTER10◆

サバップルの味を存分に堪能し、しばし休息を取る筆者。



筆者:「しかし、サバップルがこんなに美味いものだったとはな。変な先入観を持たずにはじめから素直に食ってればよかったよ。」

S氏:「なんだと?お前は本当にサバップルについて知ったつもりでいるのか?」

筆者:「え、今食べたじゃん。」

S氏:「だってお前は箱の裏に書かれた食べ方で食べてないじゃないか。」

筆者:「箱の裏・・・?」





←(ピンボケ写真のため、文字を復元しています)



←(ピンボケ写真のため、文字を復元しています)



←(ピンボケ写真のため、文字を復元しています)





筆者:「ソースやマヨネーズだとうっ!!?Σ(゜Д゜;)」




◆CHAPTER11◆

ちょっと変わった食べ方
サバップルを切ってからソースや
マヨネーズをかけて食べても美味しいです




筆者:「嘘だっ!!!Σ(゜Д゜;)」

S氏:「変な先入観を持たずに素直に食ってみるんだろ?ヽ(´ー`)ノ」



S氏の勝ち誇った笑顔に若干のむかつきを覚えるも、自分自身の言葉を引用されたのではぐうの音も出やしない。

こうなった以上はサバップルのソース・マヨネーズがけに挑む他ないが、筆者はここで最後の悪あがきをした。



筆者:「ジャンケンで勝った方がソース、負けたほうがマヨネーズをかけて食おうぜ!!」



この提案(泣き落とし)が見事に通り、筆者はソース、S氏はマヨネーズをかけたサバップルを食べることに決まった。


◆CHAPTER12◆

筆者:「どりゃああああー!!(`Д´)ノ」









S氏:「ぐおおおおー!!ヽ(`Д´)」









前代未聞のサバとリンゴとマヨネーズとソースのコラボ。それは果たしてうまいのだろうか、それともおいしいのだろうか。


◆CHAPTER13◆

覚悟を決めて、サバップルオンザソースを口に入れる筆者。





これから体験する恐怖を予感していた。





その予感は当たると確信していた。





意識はもはや深遠の淵にあった。


◆CHAPTER14◆

筆者:グピャピャア!Σ(゜Д゜;)」



S氏:「Σ(;゜Д゜)ゴバハア!」









声にならない悲鳴をあげて倒れる2人。彼らの死体の側にはソースで書かれた『サバップル』の五文字が残されていた。


◆CHAPTER15◆

別々の突出した個性を持つリンゴとサバを組み合わせたサバップルがなぜそれなりに美味しいものであったのか。

その答えは実は簡単である。

サバがリンゴに合わせていたからだ。サバの持つ個性を殺してアップルパイに馴染むようにしていたからなのである。

特徴であったはずの生臭さは疎まれたのか、緑茶や柚子などで抑えられた。

サバフレークが含まれる量も少なく、存在感がほとんど感じられない点もサバの不遇を物語っている。

リンゴとサバの関係は決して対等ではなく、サバップルの正体はあくまでもアップルパイでありサバは添え物にすぎなかったのだ。



では、ただのアップルパイに好んでソースやマヨネーズをかける人間がいるだろうか?筆者はNOであると確信する。

とにかく筆舌に尽くしがたいこの不味さ。余計な一文さえ加えなければB級止まりで済んだものを自らD級に突き落とすこのカルマ。

ある意味多くの人に体験していただきたいと思う。青森県八戸市までお越しの際は是非ご検討のほどを。すごいから。死ぬから。











−−−東北新幹線全線開業まで、あとわずか−−−